防災アナウンサー・環境アンバサダー
奥村 奈津美
大切なことは、母親が安心して授乳し続けられるように支援すれば母乳は作られ続けるということを、家族や支援者が知っておくこと
です。母乳中の免疫物質は災害時におこりやすい感染症から赤ちゃんを守ります。
ネット上には、たくさんの防災情報が溢れています。 SNS では一般の方も様々な防災情報を発信しています。気軽に知れる環境があるの
は便利ですが、一方で、時には、その情報が赤ちゃんの健康リスクに繋がることもあると懸念しています。
例えば、「災害時、ストレスで母乳が止まる」という風評があります。今も検索すると、このような情報が出てきます。実はこの風評はエビデンスに基づいた情報ではなく、この風評を耳にしたママが災害時のストレスをより強く感じるのではないかと心配です。
母乳の出には二つのホルモンが関係しています。その一つ、母乳を作るホルモン(プロラクチン)はストレスに左右されないので、ヒトの体はストレスで母乳が作り出されなくなるようにはできていないそうです。もう一つの母乳を外に押し出すホルモン(オキシトシン)は、ストレスで一時的に出にくくなることがあっても、繰り返し赤ちゃんに吸わせ続けると、母乳の流れは再開するようにできているということです。アメリカでは医師のハンドブックに「ストレスで母乳は止まることはないとお母さんに伝えて安心してもらいましょう」と書いてあるそうです。
しかし、ネット上でこの風評を見聞きしたママたちは、災害時「母乳が止まるのではないか 」と不安・ストレスを感じ、オキシトシンの分泌が妨げられるということになりかねません。母乳は乳房から外に出せばまた作られ、出さないと徐々に産生が減っていくしくみがあります。母乳だけで育てているママが、ストレスで母乳は出なくなるものなのだという話を信じてミルクを飲ませると、ミルクを飲んだ分だけ母乳が作られる量が減ってしまう恐れもあります。まずは、安心して授乳できる環境を周囲が作るのが大切です。ママの不安な気持ちに耳を傾け、 ミルクを足す前に専門家に相談するよう伝えることもできます。
数日間食べ物がなくても母乳は出るそうですが、自分自身が温かい食事がとれるように、水やカセットコンロ、ボンベ、食料を備蓄しておくことに越したことはありません。液体ミルクなどを備蓄しなくてはと思う人もいるかもしれませんが、自分が不在の時などのために「お守り」として備えたいなら、搾乳した母乳を冷凍保存しておくという方法もあります。冷凍庫で半年から 1 年も保存可能というから驚きです。停電時は冷凍庫の開閉回数を減らし、いうから驚きです。停電時は冷凍庫の開閉回数を減らし、2424時間以内に使う分は保冷剤と共にクー時間以内に使う分は保冷剤と共にクーララーボックスに入れます(災害時のミルクの使用に関してはーボックスに入れます(災害時のミルクの使用に関しては次回に説明します)。次回に説明します)。
私自身、出産後、この適切な情報に辿り着くまでに時間がかかったので、一人でも多くの新米ママ・パパに届いて欲しいです。そして、家族や避難所運営をする方が、授乳しやすい環境作りを心がけてもらえたら幸いです。赤ちゃんにとって命綱の授乳が、災害時も継続できるよう、社会の理解が広がることを願います。
取材協力:母と子の育児支援ネットワーク
【奥村奈津美・プロフィール】
広島、仙台でアナウンサーを経験後、フリーアナウンサーに。 NHK 『ニュースウオッチ 9 』など報道番組を長年担当。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来、 (一財 防災教育推進協会 講師 、(一社) 防災住宅研究所理事、防災士として防災啓発活動に携わるとともに、環境省森里川海プロジェクトアンバサダーとして、子どもの命と未来を守る防災・ SDGs 気候危機対策に取り組んでいる。3歳児の母。著書 は 「子どもの命と未来を守る 「防災」新常識」 。