第18回 「いつかの災害に、いつも備える“グラデーション防災”」

防災士
渋谷 香奈

阪神・淡路大震災の教訓から誕生した防災士は、2022年11月末現在、認証数が24万人を超えました。私もそのうちの一人として、長崎県佐世保市で防災士としてどんな活動ができるのか日々模索をしているところです。

かつて私は防災士の資格を取れば、必要とされた時にどこかから、自動的に何かを依頼されるのだろう、という無責任で安易な感覚を持っていました。防災士となってから7年。その間、あらゆる地域でさまざまな災害が起きているのに、思い描いていたような被災地での活動はできていません。仕事の都合や感染症による制限など、そう簡単に被災地で支援活動ができない現実も思い知らされています。

決められたことをただこなすだけではなく、その時ごとに自分自身で判断し、その時々で最善の行動をとるスキルを身に付ける。正解はひとつではないからこそ、防災士にはますます多様な視点が求められています。これまでも災害が発生するたびに、声を出せなかった立場の方々へも配慮がさらに必要です。最新の防災・減災の基本的知識と社会の流れにも、私たち防災士も適応していかなければなりません。

近年、防災・減災への意識向上を図るため「フェイズフリー」の考え方が広く知られるようになりました。これは備蓄食糧や非常時のグッズ・服装などだけではなく、考え方・捉え方も指している言葉です。特に関心が高いとは言えない防災・減災の分野では、いつもの暮らしの中で結果的に防災・減災へ自然とつながっている、という状態は理想的です。

平常時から災害時へ、はっきりとした境目をつけずに備える「グラデーション防災」。現代社会においては馴染みやすく「いつか訪れる災害」から「いつでも訪れる災害」へ意識づけをできる新しい防災のカタチです。防災・減災は、どんな人にも関係のある話題です。関心の深さこそ違いますが、伝え方を工夫することで「自分事」と思ってもらえる可能性がある。色の明暗や色調を徐々に変化させるグラデーションは、臨機応変に対応できる、という意味もあわせ持っています。

多様な災害、多様な地域、多様な人々―。

どんな人にも等しく訪れる災害から大切な命を守るため、ふだんの暮らしの中で備える「グラデーション防災」をこの機会にぜひあなたも大切な人へ伝えてみませんか。

【渋谷香奈・プロフィール】

特定非営利活動法人日本防災士会会員、同法人女性防災推進委員会委員。多様な視点での防災・減災の取り組みやペット同行避難を推奨するための家庭犬ドックトレーナーとしてトレーニングにも力を入れている。情報入手手段や情報発信方法などITを活用した地域コミュニティやチーム構築などの研修講師も務め、年齢層にあわせた平常時からのコミュニケーションスキルの重要性を伝えている。あらゆる社会活動に参画することで、異業種交流やスキルアップの機会となっている。