第27回 知らなかったではすまされない「最悪の被害想定」

東京都知事政務担当特別秘書
宮地 美陽子

1923年9月1日11時58分、 と推定される大地震が東京や千葉、神奈川、埼玉などを襲いました。死者・行方不明者が約10万5000人に達した関東大震災です。土曜日の昼食時間と重なって火災による被害も拡大し、東京では竜巻状の火災旋風が生じて全壊・全焼・流出の住家は約29万棟に上りました。関東南部の山地や丘陵地などには土石流による土砂災害が多発し、三浦半島から伊豆半島東岸に津波が襲来したと伝えられています。国家予算が14億円だった時代に被害総額が55億円に達した関東大震災が、9月1日の「防災の日」の起源になりました。

関東大震災から100年。国は法を整備し、ハードも強化され、人々は防災意識を高めてきました。しかし自然の猛威は常に「想定」を超えてきました。国や自治体は人々の命を奪い、生活をひっくり返す大災害への備えに向けた検討を重ねています。東京都は2022年12月、街づくりの視点から都市を強靭化する「強靭化プロジェクト」を発表しました。首都の人口は1400万人に膨らみ、交通網やインフラが行き渡り、物流はくまなく展開されています。タワーマンション(タワマン)や高層ビルが林立し、スマートフォン(スマホ)に連絡手段と情報収集を依存する生活は100年前にはなかったものです。災害対策も、令和版に更新をしていく必要があります。

「今後30年間に70%の確率で起きる」と予想されている首都直下地震、国が被害想定の見直しを進める南海トラフ巨大地震、いつ起きてもおかしくないと言われる富士山噴火。危機は静かに、確実に迫ってきています。そして、これら3つが重なる「大連動」が生じれば、これまで地球上で経験したことがないような悲劇が起こり得ます。被害は「1+1+1=3」にはならず、「5」にも「10」にも増大する可能性があるのです。自分や大切な人の命を守るためには、正しい知識のもとに老若男女、十人十色の「自分なりの想定」を準備しておくことが必要です。

私が新聞記者として山梨県に赴任した2000年、300年近くも眠り続ける富士山が、地下15キロ付近で低周波地震を急増させ、初めて国レベルのハザードマップ作りが開始されるようになりました。そして東京都知事政務担当特別秘書として都庁内の会議や意見を聞くとともに、災害や防災の専門家、被災者から話を聞いてきました。関東大震災から100年の節目である今年が、過去の災害の教訓に触れ、命を守る備えを見直す年となることを願っています。

参考:講談社現代新書 『首都防衛』 ~知らなかったではすまされない「最悪の被害想定」

【宮地美陽子・プロフィール】

1976年、千葉県生まれ。成蹊高校、早稲田大学商学部卒。大学柔道部で二段取得。南カルフォルニア大学(USC)交換留学。全国紙記者を経て、2018年8月から東京都知事政務担当特別秘書。