第14回 安易な災害派遣要請の前に

防人と歩む会会長
葛城奈海

台風シーズンを迎え、自衛隊の災害派遣が相次いでいる。
国の平和と独立を守ることを「主たる任務」にする自衛隊にとって、災害派遣は「従たる任務」だ。緊急性・公共性・非代替性という三要件を満たすときに、都道府県知事らが自衛隊に派遣を要請することができる。果たして、現状の派遣要請は適切に行われているだろうか。

例えば、令和元年秋に千葉県などを襲った台風15号や19号に際して行われた
倒木処理やブルーシート張りは、どうであろう。自衛隊に頼む前に、「代替」できる存在はなかったか。派遣に従事したある自衛官は、「ライフライン復旧後は、民間企業の仕事を取ってしまっているように感じた」と語った。自衛隊を人件費無料の便利屋のごとく利用している面はないだろうか。
防衛省のホームページを見ると、「断水に伴う給水支援」など、ほぼ毎日のように自衛隊が災害派遣に従事していることがわかる。国民や政治家は、こうした災害派遣にかかるコスト(日本国民が支払う代償)を考えたことはあるだろうか?

防衛省のホームページを見ると、「断水に伴う給水支援」など、ほぼ毎日のように自衛隊が災害派遣に従事していることがわかる。国民や政治家は、こうした災害派遣にかかるコスト(日本国民が支払う代償)を考えたことはあるだろうか?

ただでさえ人員不足に悩む自衛隊が、大事な訓練時間を割いて災害派遣に当たっている。これによって「主たる任務」である国防のために費やされるべき力が削がれている。そうした現実も直視した上で、各都道府県には、平素から自助能力を高めてもらいたいと強く思う。

「人助け」という任務の特性上、「要請したもの勝ち」になりがちであることも忘れてはならない。自衛隊側から「断る」ことは事実上困難で、一歩間違えれば、政治家や自治体、自衛隊の一部高官の点数稼ぎのために利用されかねない。近年活躍が注目されるようになった、自衛官OBの危機管理監等が都道府県知事の意思決定を適切に支えることも重要だ。

被災者を救援する自衛隊の活動を否定する者は皆無だろう。そこに生まれる美談ばかりが注目され、派遣の適否そのものへの冷静なチェックを忘れることがないよう、我々国民も注意を怠ってはならない。

【葛城奈海・プロフィール】

東京都生まれ。東京大学農学部卒業。ジャーナリスト。防人と歩む会会長。皇統(父系男系)を守る国民連合の会会長。予備役ブルーリボンの会幹事長。防衛省オピニオンリーダー。日本文化チャンネル桜『Front Japan桜』レギュラー出演中。産経新聞『直球&曲球』連載中。近著(共著)に『国防女子が行く』(ビジネス社)、『大東亜戦争 失われた真実』(ハート出版)新著『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)で第4回アパ日本再興大賞受賞。