第7回  老いと災害 ~遠くの親戚より近くの他人~

玉川博一事務所 事務局長・社会福祉士
大内 陽子

私が約30年務めた福祉関係の職場で、中学生と一緒に防災について考える機会があった。その時に、「今は、共働き世帯が多く、日中独居にな
る高齢者も多いから、災害時には地元の中学生の力がとても大きい。普段から近所に住んでいる高齢者と挨拶するなど顔見知りになって欲しい」と話した。

するとA君が「災害時はまず自分の命が大事だから、他人のことまで考える余裕はないと思う。だから、日頃からの挨拶が役に立つのだろうか」と聞いてきた。そこで私は次のように答えた。「もちろん、災害が起きた時は自分の身を守ることが大事。中学生の力が活きるのは、その次の段階。もし、A君の中学校に近所の高齢者が避難してきた時、一人ではとても不安だと思う。でも、毎日挨拶を交わしているA君がそこにいたら、それだけでその人に“安心感”を与えることができる。ほんのちょっとしたことだけど、災害時には大きな力になると思う」と。するとA君は「なるほど」と理解をしてくれた。

もちろん、子供たちだけでなく、高齢者側にも意識を持ってもらわなくてはいけない。私は、以前、高齢者の方に「電車やバスの中で席を譲られたら、断らずに、譲られボランティアになってください」と話したことがある。あえて自分が譲られてあげることで、譲ってくれた人に対して良いことをしたと思えば、譲られることへの抵抗感や嫌悪感を抱くことがなくなるからだ。

少子高齢化に伴う核家族化によって、独居高齢者が増える一方で、未婚で“お一人様”生活をしている人も増えている。個人が尊重される時代ではあるが、あえて、現代の地域コミュニティに必要なのは「遠くの親戚より近くの他人」であると言いたい。

年を取れば取るほど、有事の際の不安は大きくなる。なのに、老いに向き合おうとしたり、知ろうとする人は少ない。そこで、いずれやってくる親や自分自身の“老い”について考えるきっかけになればと、現在『老いる検定』の企画を進めている。

【大内陽子・プロフィール】

社会福祉協議会に約30年勤務し、ボランティアや地域コミュニティの推進に携わる。また、社会福祉士の資格を取得し、本人主体の支援を実践する。
現在、玉川習字教室にて小中学生の指導を手伝う他、「老いることを正しく理解する」ための「老いる検定」を試作中〔https://kentei.cc/user/464264?sort_key=6〕。